91.『蹴りたい背中』を読む 「読書会」

第36回面白白樺倶楽部開催報告

平成16年5月14日
参加者数:一般6名・学生8名
  スタッフ7名(内司会進行2名/実習生) 計21名参加

「蹴りたい背中」
「蹴りたい背中」

今回の面白白樺倶楽部は、今までとは趣向を変えて「読書会」という形で開催されました。課題図書としては最近話題となった、 綿矢りささんの『蹴りたい背中』を取り上げました。最年少芥川賞受賞、あっという間にベストセラーとなったこの作品は多くの人に読まれましたが、 すべての人がその文章を受け入れたというわけではないようです。19歳の女性の作品ということで、そこには世代間の読みの違いや、 読後感の差があるのではないでしょうか。今回の読書会では、学生と年配の方との交流をはかり、お互いに意見を出し合い、 世代を越えた話し合いをすることを一つの目的としてきました。多くの学生の方にご参加いただき、 また司会進行は私を含めた二人の学生(実習生)が務めるという、学生中心の会となり、活発に意見交換がなされました。

10代から70代までもれなく勢揃い
10代から70代までもれなく勢揃い
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『蹴りたい背中』の印象や読後感
前半は『蹴りたい背中』の印象や読後感の話が中心となりました。単純に、この作品を受け入れられるかどうか、 好感が持てたか持てなかったかという話から、文中にある技法の話まで、さまざまな意見がでましたが、 なかでも
「擬音が新鮮」(学生Aさん)、「主人公の微妙な気持ちを、うまく音に託している」(学生Bさん)、「(作者は)音がよく聞えている」(文学研究者C先生)

など、「音」に関する意見が際立ちました。

司会の学芸員実習生
司会の学芸員実習生
後列3人目東洋大学大場さん
隣大正大学朽木さやかさん
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一度読んだ時には何の共感も得なかったという読者も、
「二・三度読み返すと、段々とわかってきた」(一般Dさん)、「よく読むと皮肉がたくさん散りばめられている。嫌な主人公をしっかり書けているのがすごい」(学生Eさん)
との意見も出ました。

世代別による読み方の相違
しかし、やはり独特の表現や世界観に読みづらさを感じる方もいらっしゃいました。
「疲れる。ピンとこない」(一般Fさん)
と感じる方や、
「2、3ページ読んでやめてしまった」(一般Gさん)
という方もいらっしゃいました。ただ、そういった意見は年配の方だけではないようです。

意見交換会その1
意見交換会その1
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意見交換会その2
意見交換会その2
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「頭に入らず、読むのに時間がかかった」(学生Hさん)
という意見が学生の方からもでてきました。
「直感的・映像的な文章で、自分で自分にツッコミを入れているような部分もある。そこにノッていけるかどうか」(文学研究者I先生)
という意見もあり、一概に世代間による読みの違いがあるとも言えないように思いました。

意見交換会その3
意見交換会その3
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「蹴りたい」という感情
後半は主に「蹴りたい」という感情は具体的にどのようなものか、というところに意見交換が集中しました。あこがれ、嫌悪、性欲、 大きな意味での愛情、憎しみ、親近感・・・とさまざまな意見がでましたが、
「"あの気持ち"としか言いようが無い」(文学研究者I先生)
という意見や

席上配布資料その1
席上配布資料その1
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席上配布資料その2
席上配布資料その2
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「言語化できない気持ちを音などに託したのでは」(学生Bさん)
など、「蹴りたい」という衝動を言語化するのは難しいという意見も出ました。ただ、
「この背中を踏み台にして今の現状から抜け出したいと思う主人公の気持ちを、 "蹴りたい"という表現にしたのでは」(学生Jさん)
という奇抜な意見もでて、このことに関しても意見がたくさん出ました。

最後に
会は終始和やかな雰囲気で進み、休み時間には学生と一般の方が意見交換をし、あちこちから明るい声が聞えました。 また、自分が考えもしなかった意見も聞けて、みなさんその都度感心し、またそれに対して意見も出てくるという、 読書会には最適な、本当にすばらしい場となりました。

電子ブックでもベストセラー
電子ブックでもベストセラー
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今回のことがきっかけとなり、今後年配の方が若者の文学を、若者が今まで読まなかった文学を読むようになれば、本当にすばらしいことだと思います。そういった意味で、 今回の読書会という企画は意義あるものだったのではないかと思います。参加してくださった皆様には深くお礼を申し上げます。 ありがとうございました。

(実習生・東洋大学文学部 大場寛子)