99.「手賀沼の今と昔」

- 第39回面白白樺倶楽部開催報告 -

平成16年8月13日

講師 深山正巳氏
(全国内面水漁場管理委員会連合会会長、千葉県内水面漁場管理委員会会長、手賀沼漁業協同組合代表理事組合長)

講師の深山正巳氏
講師の深山正巳氏

講師の深山さんは、大正14(1925)年手賀沼(千葉県東葛飾郡旧手賀村 現沼南町)生まれの手賀沼育ちで、手賀沼の水質保全と浄化と美しい手賀沼の景観のために、命を懸けて,今なお現役で活躍されておられます。
昭和19(1944)年、沼の渡し船が突風で転覆し、乗船していた人々に多数の犠牲者が出るといういたましい事故が発生しました。無医村のため手当てが遅れたことによる、この事件にたまたま遭遇したことから、一時は医師を目指し医学学校に進学しますが、戦争のため断念。戦後は中央大学法学部を卒業され、父親の要請をうけて家業の手賀沼の漁業を継ぐことになります。
以来79歳の今なお、、手賀沼フィッシングセンターを経営されるほか、全国の湖沼の漁業問題,水質保全浄化などと取り組み、現役の長として活躍されておられます。最近発足した「手賀沼学会」発起人の一人でもあります。


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今回はご自身自ら「愛する手賀沼に生涯を捧げてきた」と語られ、文字とおり手賀沼の 「生き字引」ともいわれる深山さんに、水清らかな時代の手賀沼と現代の手賀沼にまつわるお話をおうかがいしました。以下当日の講演の要約です。

1.手賀沼の全般的状況


第一図 手賀沼の概況
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昔の手賀沼は2倍も広かった!(クリックで拡大
(1) 手賀沼の面積  干拓以前の面積は1,180(東京ドームの252倍)ヘクタールありましたが、昭和33年農林省と契約して干拓事業を開始、干拓面積530ヘクタールが出来て、昭和43年干拓工事完了時点で、650ヘクタールとなりました。その後更に、宅道、水辺公園、遊歩道等の造成により50ヘクタール減少して現在は約600ヘクタール(東京ドームの128倍)と推定され、当初面積から半減したことになります。
(2) 手賀沼の水位、水量  水位は大半Y,P2.0〜2.2メートル(注1)ですが、その時の水量は約510万立方メートルです。
(3) 流入河川から手賀沼への流入量 毎分約280立方メートルですが、そのうちの約70%が生活系排水であり、このことが手賀沼の水質状況を悪化させて来た原因でしょう。 (注1)T.P.はTokyo Peilの略で、地表面の標高のことです。地表面の海面の高さを示す場合、基準になる水準面が東京湾中等潮位で、記号として用いてます。ほかにY.P.、A.P.等があり、これらはそれぞれの河川にあわせた基準を示しています。Y.P.はYedogawa Peilの略で、江戸川・利根川などの水位を測るときの基準となる水面の高さのことで、旧江戸川河口の堀江量水標の零位を基準としました。

2.手賀沼の水質状況


第2図 手賀沼の水質状況
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手賀沼の面積が当初から比べて半分になってしまったこと(狭くなった)と、その周辺の宅地化、都市化現象により生活排水が大量に流入したことにより、手賀沼の水質汚染は上の第2図にあるとおり相当に進行しました。干拓工事完了後の昭和45年頃から徐々に悪化し、昭和54年と平成7年の二つの山をピークにして水質は悪化してきました。
ちなみに全国湖沼における、汚れを表すCOD(化学的酸素要求量)数値による水質ワーストランキングによると、手賀沼は
 平成11年度:ワースト1位 (COD18r/l)
 平成12年度:ワースト1位 (COD14r/l)
 平成13年度:ワースト2位 (COD11r/l)
 平成14年度:ワースト9位 (COD8,2r/l)
となっています。
なお、CODとは、Chemical Oxygen Demandの略で、和訳すると化学的酸素要求量という意味です。これもBODと同じように水の汚れの度合いを表す値として用いられ、酸化剤(過マンガン酸カリウム)を使用して測定します。測定に要する時間は、BODが5日間、CODは約30分かかります。
またBODとは、Biochemical Oxygen Demandの略で、和訳すると生物化学的酸素要求量という意味です。水の汚濁指標として用いられ、工場排水等の規制項目の一つとして重要なものです。微生物が水中の有機物を分解するときに消費する酸素量として表され、この値が大きいほど、水の汚れの度合いがひどいことになります。
平成8年以降COD値が下って来ているのは以下の浄化対策事業を行って来たからでしょう。 運設省(現 国土交通省)の事業としては

(1) 北千葉導水事業(第1図左端赤印 第2機場)
 利根川(印西地先)から揚水し、最高毎秒10トン(通常5トン位)の水を手賀沼(柏市戸張地先)へ導入し、平成12年度から始動しています。
(2) 礫間(れきかん)接触酸化法による河川浄化施設の設置
 川の自浄作用を大きくするための方法の一つで、川底に石をたくさん置き、それについた汚れを微生物が酸化分解することにより、水をきれいにするしくみです。
 大堀川と大津川(第1図、左端)に設置されており、毎秒3トンの手賀沼の水を導入し浄化する。
(3) 手賀沼の護岸構造をコンクリート材でなく、魚が産卵できるような蛇篭(じゃかご)工法(注2)による植生護岸とした。
・千葉県の事業としては
(4) 手賀沼流域内の8市町約47万人の生活排水(下水道処理)を行っている。これは活性汚泥法+急速ろ過法により浄化し、利根川へ排水するのである。
(5) 手賀沼のヘドロを浚渫する。平成14年度までに100万立方メートルを除去し、毎年7〜8万立方メートルの浚渫(しゅんせつ)を継続実施している。
(注2)蛇篭の内部に,SF緑化工法の基材を注入して生育基盤をつくり,植物を種子から導入する近自然護岸工法です。 自然の土と有機物を材料とし,高分子凝集剤の作用により,団粒構造を持ち,かつ侵食に強い生育基盤を造成します。流水や波浪による侵食はありません。また,河川の浄化にも役立ちます。導入する木の根が地盤に侵入し,蛇篭護岸を補強するとともに,水辺の生態系を早期に回復します。導入する植物は,主に耐水性に優れたイタチハギやリードキャナリーグラスで,ヤナギなどの挿し木を併用します。

3 手賀沼の生活魚類等


手賀沼にすむ生き物たち
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現在生息していると見られるのは、上の第3図にかかげたものである。

(1) 魚類
 多いのは、コイ、ゲンゴロウブナ、ギンブナ、モコブ、ハクレンの順である。
全国的に問題になっているサンフィッシュ科のオオクチバス、ブルーギルは以外と少ない。 ウナギ、ナマズ科のマナマズは極めて少ない。
手賀沼がウナギの漁獲量を誇ったのは、昭和30年代前半までです。その頃まで多く生息していて今は姿を見せないのは、コイ科のキンブナ、ドジョウ科でドジョウ、メダカ等です。
(2) 貝類
 手賀沼と流入河川の一部にかすかに生息しています。昭和30年代前半まではマシジミ等が多数いました。
(3) 甲殻類
 現在はテナガエビが最も多く、次いでヌマエビ、アメリカザリガニです。
(4) 両生類、爬虫類等
 現在はウシガエルのみが生息しています。以前はイモリ、ニホンアマガエル、トノサマガエル、ヒキガエルが多くいました。ヘビ属ではアオダイショウ、ヤマカガシ、シマヘビの順に量的に確認されます。


手賀沼風景(講師の深山正巳氏作)
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4.昔の手賀沼のくらしと自然


鳥の猟(クリックで拡大


魚とりうけ漁具(クリックで拡大


かつての手賀沼は、水生植物の宝庫であり、ウナギやワカサギなどいろいろな魚がすみ、水鳥や渡り鳥が群れをなしていました。昭和28年当時では,とても珍しいカラー写真で深山さんは鳥の猟やさまざまな魚をとる漁法などたくさん撮影されています。それらをもとにのどかで美しい手賀沼のお話をいただき、改めて手賀沼の自然の偉大さを痛感させられ、白樺派の文人が集まったころに思いをはせたひとときでもありました。 講師の深山さん、これからもますますご健勝でご活躍されますようお願いいたします。
真形久視記


手賀沼のウナギ採り(クリックで拡大

手賀沼夕景(クリックで拡大