119. 第47回面白白樺倶楽部報告

「志賀直哉の世界」(ビデオ鑑賞会)

解説 渡辺貞夫 (白樺文学館副館長)
期日 2005年4月8日(金)18時30分より
場所 当館コミュニテールーム


紅白咲き分けの桃
クリックで拡大
4月8日はお釈迦様の誕生を祝う花祭りとして、今でも行われているところがあるようです。この日にふさわしく、志賀直哉旧居跡の隣地には丁度桃の花が見事に咲きそろい、満開の桜とともに来館されるお客様の目を楽しませていました。今回は不思議なご縁で入手できた貴重なビデオテープ鑑賞会の報告です。

入手経緯の説明
入手経緯の説明
平成13年(2001)丁度白樺文学館開設の秋、世田谷文学館で「志賀直哉没後30年企画展」が開催されました。その折に当館スタッフが会場で上映されていたビデオテープ「志賀直哉の世界」に注目し、是非購入したいものと、発売先の岩波書店はじめ、関係先に問い合わせしましたが、残念ながらその時はかないませんでした。
その後、隣町柏市在住の村田様が来館され、資料室所蔵の「志賀直哉との対話」の著者今村太平氏の娘さんであることがわかりました。居合わせたスタッフがわらをもつかむ思いでビデオテープを捜し求めていることと、心当たりがあればお知らせくださいとお願いをしておりました。村田文子さんは、株式会社岩波書店お勤めで旧知の米濱さんにこの件について問い合わせされておりました。

ビデオに集中して
ビデオに集中して
それから数年後の今年平成17年1月、我孫子市在住の米濱泰英氏より待望の「ビデオテープが見つかったので寄贈したい」という誠に有難いお申し出をいただきました。
米濱さんが来館されビデオテープ発見までのいきさつをうかがい、なんとも不思議なご縁を思うとともに、驚きと感謝の念で胸が熱くなる思いでありました。テープ発見までのいきさつは以下のとおりであります。

米濱さんは株式会社岩波書店に同じくお勤めの柳宗直氏に、この件をお願いしていたところ、このたび大変なご苦労の末、埼玉県鶴ヶ島市の同社倉庫の片隅に18年間眠っていたテープを発見、柳氏より米濱さんに手渡されたとのことです。
テープを発見された柳宗直氏は、柳宗悦の次男宗玄氏(我孫子生)を父に、志賀直哉の4女としてやはり我孫子生れの母万亀子さんとの間に誕生されています。
すなわち柳宗直さんは柳宗悦と志賀直哉両人共通のお孫さんということになります。
こうした目に見えない深いご縁に結ばれた方々のご好意の手を経て、昭和63年(1988)製作のビデオテープ「志賀直哉の世界」は白樺文学館に到着したのであります。

「志賀直哉の世界」(カラービデオ46分)


ビデオ「志賀直哉の世界」
クリックで拡大
昭和63年(1988)阿川弘之氏(当時68歳)が、東京渋谷区常盤松(現在東1丁目)の志賀直哉邸にご子息志賀直吉氏をお訪ねしたところから始まります。さらにこのときから遡ること30年、昭和33年お元気なころの作家志賀直哉75歳の日常生活と、38歳の直弟子阿川氏が撮影されたモノクロドキュメンタリー映画「志賀直哉」(1958年羽仁進監督)を見ながら、志賀さんの想い出を阿川氏が語るという趣向で作られたものです。

都内を散策して健脚振りを披露する志賀さんと阿川さん、志賀さんに師事した尾崎一雄、網野菊、滝井孝作との懇談、お孫さんと動物園で楽しまれるお姿、そして出版された初版本、とりわけ着手以来26年を要した昭和18年出版の「暗夜行路」の一冊本の紹介があります。志賀さんは「長い間に何度かスランプに遭遇したが、書くことが好きなのだから、その都度克服した」とやや高音の肉声で発言しています。そして「自分を熱愛し、自己を大切に、自分を尊敬することが大切」との言葉も残しています。また志賀さんは自らを合理主義者と称し、我孫子での不幸な出来事と迷信の関連についても明確に否定されたり、勘定高いこともある面では必要なことであると例を挙げて説明されるなど、等身大の志賀直哉の人柄を知る上で、貴重な発言と興味深い画像も映されていました。

生原稿から活字まで 米濱さんの説明
生原稿から活字まで 米濱さんの説明
阿川さんは、羽仁進監督短編記録映画の終了後、唯一の長編「暗夜行路」の最終章伯耆大山の夜明けの描写は、たった一度みた光景を、23年後に朝日の指す方角まで寸分違わずに書き記していることについて言及しています。こうした才能の持ち主は100年に1人出るかどうかという特殊才能を備えた作家であろうと、感服されているところは、まさに志賀さんを心から敬愛されておられる阿川弘之さんらしいお話でありました。
    
志賀家略系図(志賀直哉全集岩波書店1999より)
志賀家略系図
(志賀直哉全集岩波書店1999より)
クリックで拡大

当館所蔵「暗夜行路」直筆原稿
当館所蔵「暗夜行路」直筆原稿
(クリックで拡大)
[別ウィンドウで開きます]


志賀直哉全集第4巻p553(岩波書店1999)
志賀直哉全集第4巻p553
(岩波書店1999)
クリックで拡大

ビデオ鑑賞途中に数回、志賀直哉家と柳宗悦家の家系図、家族写真、志賀さんの年譜などの添付資料をもとに補足説明があり、おおむね参加者にも好評とのことでありました。最後に、白樺文学館所蔵「暗夜行路」の直筆原稿一枚の写しと、活字になった全集の部分7行の対比についての解説がなされました。思いがけずその中に2箇所(当日数箇所追加)の相違が発見されたことの報告がありました。この相違について当日ご参加いただいた米濱氏にご意見をお願いしたところ、数々の全集を発刊された経験に基づく貴重ないくつかのお話がありました。さらにその関連質問、直筆原稿における漢字の略字と本字との使い分け、旧仮名遣い、志賀さんの無宗教葬儀などについての質問等が相次ぎ、予定の時間が足りないほどお話に花が咲くという賑やかな面白倶楽部となりました。

最後にこの貴重なビデオテープご寄贈に協力いただいた関係の皆様に、重ねて厚く御礼申し上げます。                                       
(渡辺貞夫記)