127. 「志賀直哉文学紀行」

第三回企画展記念講演会
第51回面白白樺倶楽部開催報告

講師 渡部芳紀氏(中央大学文学部教授)
期日 2005年8月12日(金)18時30分より
場所 我孫子市生涯学習センター(アビスタ)

作品を解説する渡部先生
作品を解説する渡部先生
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今回の白樺面白倶楽部は、9月23日(金)より催される第三回企画展「志賀直哉・康子夫妻我孫子転居90年展」記念講演会のプレイベントとして開催されました。志賀直哉文学を「志賀直哉文学紀行」と題し、作家と風土の関係についてスライドを使っての講演でした。以下講演概要は学芸員実習中の川村学園女子大学間中沙織さんにまとめていただきました。

前半は志賀直哉の作品の中から、後半で映写される関連箇所を予め選んでレジュメにまとめていただいたものについて、説明がありました。志賀直哉の生まれた宮城県石巻から、少青年時代を過ごした六本木、初めて家を出た尾道、「城の崎にて」「暗夜行路」にも出てくる城崎温泉、「焚火」「赤城山にて或日」の赤城山、最も充実した一時期を過ごした我孫子、奈良、戦後の佳作を生んだ熱海、終焉の地である渋谷までなどについて、判り易い懇切丁寧な解説から始まりました。

直哉は明治16(1883)年2月20日、現石巻市住吉町に父直温(31歳)母銀(21歳)の次男として生まれます。明治18年、父直温は第一銀行石巻支店を辞任し、ともに石巻を去り上京。当時の記憶は無いが後年(昭和16年5月28日)娘たちと石巻を訪れ
<住吉町の昔の家探してみたが跡かたもなく>(妻康子宛書簡)と書き送り、
<日吉山といふ山に登って海を眺め名物ゴマ餅といふのを食って帰ってきた>
と続けています。記憶は無くても自分の生まれた土地を見に行くというのが印象的でした。

尾道南方風景
尾道南方風景
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尾道には大正元年11月10日に着き、大正2年11月15日に引き上げます。直哉19歳から30歳にかけて過ごした六本木の家を出て、初めて一人で暮らした作家への成長途上の重要な1年でありました。「稲村雑談」では、
<東京を離れてさふいふ風に暮らしたのは初めてだつたから相当長く住んだやうな気がした>
<僕は意気地なしだから何しろ淋しかった>
と言っている。

尾道西方風景
尾道西方風景
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後半はスライドで、文学の世界をカラー映像で楽しむという言葉どおり、素晴らしい写真を見せていただきました。年間マイカーで全国各地を3万5千キロ走破し、1万枚も撮られる中から選りすぐりの写真はどれも印象的でした。その中から志賀直哉文学の舞台となった主要な地が紹介されました。

城崎大谿川と石垣
城崎大谿川と石垣
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尾道は渡部教授が特にお勧めのようで、時任謙作の行った浄土寺や長屋、千光寺などの様子がよくわかりました。現在、三軒の棟割長屋は文学記念室となり、その一室は志賀直哉の部屋として公開されているそうです。

城崎では現在でも
<わきの洗い場の前でえさをあさってゐた二、三羽のあひるが、石が飛んでくるのでびっくりし、首をのばしてきよろきよろとした>
という様子が髣髴とされるあひるの写真もありました。
大山・阿弥陀堂
大山・阿弥陀堂
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<鼠は石垣へ這い上がろうとする>
という石垣は、玄武岩の平べったい石が組まれたものということで興味深く見ました。

『暗夜行路』の舞台となった大山寺は、神社とお寺が一緒にあるとのことです。作品の中で、直哉は中腹まで登ったと書かれています。渡部先生は頂上まで登ったとのこと。そのお陰で私たちは、美しい山々の写真を見せていただくことができました。

赤城山・小鳥島「焚火」
赤城山・小鳥島「焚火」
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先生お勧めの作品「焚火」関連の赤城山。妻康子が神経衰弱気味で静かな所を欲したとのことでした。この場所には直哉文学碑が建っています。地蔵岳から見る黒檜山をはじめとする山々と、中でも『焚火』の舞台となった大沼(おの)の写真は、お話もあってか格別美しく見られました。

満員の会場
満員の会場
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最後の質問の時間に、ある参加者から、「作品の背景や関連写真でたどると、活字では読みきれないもうひとりの作家志賀直哉が見られ有意義な講演でとても良かった。」というお礼の言葉がありましたが、本当にそう感じました。文字だけでは感じ取りきれない部分がつかめた方もおられたのではないでしょうか。 また、渡部先生から、直哉は尾道、松江宍道湖赤城大沼、熱海など水の側によく住んでいるという水とのかかわりに注目したいということで、企画展のサブテーマ「白樺文人はなぜ手賀沼にきたか」にかかわる
渡部先生ご夫妻(白樺文学館にて)
渡部先生ご夫妻(白樺文学館にて)
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大きなヒントをいただけたように思いました。これからもここで学んだことを土台にし、さらに深めていけたらと思います。素晴らしい講演をしていただいた渡部芳紀先生とスライド映写を担当された奥様に改めて御礼申し上げます。ありがとうございました。本文中の風景写真はすべて渡部先生の撮影されたものをご好意により掲載させていただきました。

(学芸員実習生 川村女子学園 間中沙織記)